2005年4月号
親の悩みアラカルト4

ほとけの子

春の花に迎えられ、入園、進級の4月になりました。親も子も、成長の喜びと新しい生活への期待にワクワクしますが、一方で不安な思いもないではありませんね。
「朝、園で別れるときに泣かないかしら」「先生のお話を聞けるだろうか」「友達ができるかな。喧嘩をしないかしら」など、親として、特に初めての子どもが入園する時は心配してしまいます。
子どもは、園の集団生活で家ではできない多くの体験をします。楽しいと思うこともたくさんあります。でも、イヤだ困ったという体験もします。イヤだ困ったということが起こったとき、親としてどのように子どもに接したらよいのでしょう。
洋子さんには2人の子どもがいます。3歳のサオリちゃんと8ヶ月のジュン君です。近頃ジュン君が大泣きしたり、体が赤くなっていることがあり、気になっていた洋子さんでしたが、サオリちゃんが、お母さんの見ていないところでジュン君をつねっていることに気付きました。子育ての難しさを感じると同時に、こんな風ではサオリちゃんが園の友達と仲良く生活できるのかしら、と新たな不安も出てきたのです。
悩んだ洋子さんは、子どもとの心の絆を作り、親の役割を効果的に果たす方法を学ぶ「親業訓練講座」を受講しました。これは心理学や教育学の研究成果からなる1回3時間、全部で8回の体験学習プログラムです。
講座の2回目で、子どもがイヤだ困ったと感じているときは、子どもの言葉と心に耳を傾けて気持ちを確認するという「能動的な聞き方」を学びました。
ある日、園から帰ったサオリちゃんが「サオリね、今日ヨッちゃんと喧嘩したの」と言いました。サオリちゃんが「友達と喧嘩した」と言うことは時々あるのですが、そんなとき洋子さんは「仲良くしなきゃだめよ」とか、「先生はなんて言ったの」とか言っていたのです。
でも今日は、学んだ「能動的な聞き方」を意識して、サオリちゃんの気持ちに寄り添うように聞いてみました。「そう、今日ヨッちゃんと喧嘩しちゃったんだ」。すると「うん、だってヨッちゃんが、ひとりじめしたんだもん」と言います。「ヨッちゃんがひとりじめしたのがイヤだったんだね」と気持ちを汲むと、「そう。だってヨッちゃんがブロックいっぱいで遊んでいて、サオリが行ったら『ひとりで遊ぶからダメー、あっちへ行けー』って言ったの。それでがぶ(噛みつく)したの」と言います。
今までなら「がぶしちゃだめ」と言うところなのですが、「『あっちへ行けー』って言われて悔しかったんだね。それでがぶしたんだね」とつらい気持ちに寄り添いました。すると「うん、イヤだったの。それでがぶしたの。でも先生は何も言わなかったの」と言います。「イヤだったからがぶしたけれど、先生は何も言わなかったんだね」と繰り返すと、「先生が何も言わなかったから、ごめんなさいできなかったの」と言います。あやまるタイミングが分からずに後悔している気持ちが伝わってくるのです。そこで「先生が何も言わなかったから『ごめんなさい』って言えなかったけど、サオリは『ごめんなさいって言った方が良かったなー』と思っているんだね」と気持ちを汲むと、「うん」と満足そうな表情になりました。
思いがけないサオリちゃんの心が見えた親子の会話ができたのです。
洋子さんは「今まで、先生はサオリのことをどう思っているのかと気にしていたのですが、『能動的な聞き方』をしたことで、子どもの心の葛藤を知ることができました。そして、サオリが自分でこうした方が良かったと考えたことに驚きました」との感想を私に話しました。子どもと心を通わせながら、成長を手助けできる親でありたいですね。

塩本 京子 親業訓練インストラクター
千葉県市原市在住