2006年6月号
親の悩みアラカルト6

ほとけの子

「もうびっくり、目からうろことはこのこと」
「親業訓練講座」を受講された洋子さんのお話を紹介します。
洋子さんは三歳と二歳の姉弟のお母さんで、二人の子どもを延長保育で保育園に預けながら、ご自身も他の保育園で保育士の仕事をなさっています。保育園で子どもに接するのとは、また違った難しさを自分の子どもに接するときに感じるようになりました。そこで、仕事にも自分の子育てにも役に立てたいと思い、「親業訓練講座」を求め受講されました。

「保育園生活に慣れてきたら、長女は、私が迎えにいっても園庭で遊びたがってなかなか帰ろうとしなくなったんです。鉄棒、ブランコ、滑り台と次々に見ていてもらいたがる由香についイライラして、『もうおいていくよ』がそれまでの私の口癖になっていました。由香は泣きながら追いかけてきてそのまま泣いています。私は、『遊びたい気持ちは分かるけど、忙しいのだからしかたがないでしょ』とぶつぶつ言いながら無理やり手を引っぱっていく。毎日こんな調子で、迎えに行くのが憂鬱(ゆううつ)な程でした。

そこで、今日は、講座で学んだ『わたしメッセージ』を絶対に言うぞと決心しました。私の顔を見るなりブランコの方へとんでいく由香に、『由香ちゃんが遊んでいてなかなか帰ろうとしないと、母さんご飯の支度ができなくって困る。お腹がすいたってみんな待っているでしょ。亮輔も眠くなっちゃうし、焦っちゃうよ』。すると、由香が私の顔を見て『ふーん、ご飯できなくなるの』と言って、車の方に歩いていくではないですか。ちゃんと分かってくれたのです。あまりのあっけなさにびっくり。胸を張って小走りに行く由香の姿が大きく見え、たまらなくかわいく思えました。

『わたしメッセージ』(わたしを主語にして、相手の行動+わたしへの影響+わたしの感情)を伝えるために、私のこの気持ちは何?どうしてこんな気持ちになるの?自分の心に問いかけてみました。そこで、早く夕食の支度をして食べさせてお風呂に入れて寝かせて、と時間に焦っていたことに気付いたのです。それをはっきり自覚したら、いつも焦っているわけではないことにも気付きました。『今日は、時間がたっぷりあるよ』とも言ってやれそうです。今まで癖が付くと困るからと同じ態度でいなければならなかった呪文から解かれた思いです。私の気持ちに聞いてやるってこういうことだったんですね。私の気持ちを見つめ正直に伝えればいいんですね。

添い寝をしていると、『見て見て』と母親に自分のできることを見てほしがる由香の姿がよみがえってきて、胸がきゅんとなりました。『今日は由香が遊ぶのをがまんしてくれたから早くご飯が作れて助かったわ。鉄棒やブランコやすべりっこするのを母さんに見てもらいたかったのね。いっぱい遊べるようになったのね』って頭をなでたら、由香がぎゅっとしがみついてきました。いとおしい時間でした。

そのことを帰ってきた夫に話したら、『へーえ、“ 親業”って不思議だなあ。お前がそんなにおだやかな顔になるなんて、俺も気分いいよ』ですって」

洋子さんは最後にこんなことも言われました。  「今まで、人はどう思うか、世間は?と外の目ばかり気にして不安になっていました。『親業訓練講座』を受講して、判断するものさしは、自分の中にあることが分かりました。わたしはどう感じているの?と自分に聞いてやることで、とっても素直になれ楽になりました。目からうろこが落ちました」
話を聞いて、私も洋子さんの幸せのおすそ分けをいただいた気分でした。

「わたしメッセージ」は、私を主語にして非難がましくなく、「あなたのこの行動がこんな風に私に影響を与えるので、私は今こんな感じがしています」と素直に伝えるので、子どもは理解しやすく協力的な気持ちになりやすいのです。命令や指示をされているわけではないので、それではどうしようと子どもは自分で考えて行動できます。まさに思いやりと自立を育むメッセージです。
いやだ、困ったと思っていいし、それを言葉にして伝えていきましょう。うれしい気持ちをそのまま言葉にして伝えましょう。不思議な「親業」の「わたしメッセージ」で。

中村秀子 親業訓練協会インストラクター
岐阜県各務原市在住