2017年 教師学事例研究会のご報告

2017年8月2日(水)、第15回教師学事例研究会が、金沢工業大学大学院 東京虎ノ門キャンパス(東京都港区)で開催されました。全国各地から、教師、幼稚園教諭、保育士、保護者など立場の違う方々が一堂に会し、教育現場での実践事例の発表などが行われました。また、希望者には参加証明書が発行されました。(共催:教師学研究会/親業訓練協会)

教育とコミュニケーション力(りょく)

〜ゴードン博士に学ぼう! 教師学マインド〜

今年の教師学事例研究会のテーマは、「ゴードン博士に学ぼう! 教師学マインド」。

教師学事例研究会の野利雄実行委員長による開会のことばに続き、1.ミニレクチャー(行動の四角形)、2.現場からの事例発表、3.全体シェアリングという構成で進行しました。

事例発表では、熱心な意見交換が行われ、最後は全体でのシェアリングで一日を振り返りました。

チラシ&プログラム

【教師学ミニレクチャー】
行動の四角形

ミニレクチャーの様子

教師学インストラクター
草柳 明彦氏

教師学インストラクター草柳明彦氏によるミニレクチャーでは、教師学の重要用語が、「行動の四角形」の説明を基に解説されました。教師が生徒の行動を見聞きした時に、教師自身の気持ちを整理し、生徒への対応を選ぶためのツールである「行動の四角形」。このツールを使うことにより、教師が生徒の話を聞いて援助する場面なのか、教師自身が語ることで援助を求める場面なのか、または生徒との関係を深める場面なのかを教師自身が見極め、それぞれに効果的な対応を選択することができます。教師学に初めて触れる方、すでに学んだ方にも分かりやすい説明がなされ、以降の事例発表を聞く準備を整えるための貴重な時間となりました。

*実践事例発表*

教師学マインドできずく絆
−心の声に耳をすます−

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東京都 公立中学校副校長
宇野 頼子氏

公立中学校で家庭科の教師として34年。今年度から副校長として活躍されている宇野さんが、これまで学校現場でどのようにゴードン・メソッドを活用し、生徒との絆を深めてこられたか、特に印象深い生徒との事例を交えながらお話くださいました。

ゴードン・メソッドを知る前の宇野さんは、「子どもには気持ちを持って接しさえすれば思いは伝わるものだ」と思っていたそうです。しかしなかなか上手くいかず、生徒との間で対立があった際にどう解決するべきか、悩む時期が続きました。

そんな中、ある男子生徒との出会いから、生徒が自分の“ありのまま”を受け入れられるようになるために、教師はどう関わるべきかを深く考えさせられる出来事があり、親業訓練一般講座の受講を決意。その後は親業訓練上級講座、自己実現のための人間関係一般講座、教師学一般講座と一気に学んでいかれました。

教師学を学び、実践していく中で宇野さんは、「教師が子どもの問題に直接手を貸さずとも、生徒自身が自己理解を深め、次に何をするべきかを考え、行動していく力を持っているのだ」との確信を深めていきます。「能動的な聞き方」の事例では、参加者も実際の会話と、「もしゴードン・メソッドを知らなかったらこんな会話だったのでは?」の2種類をロールプレイで体験。それぞれの場面での生徒の気持ち、教師の気持ちを味わいました。

また、管理職として、メンタルケアの視点からも先生方が学校で更に活躍できるよう、ゴードン・メソッドを活用しながら支えたいと言う宇野さん。そして「先生方にはぜひ生徒と心の通い合うコミュニケーションの方法を獲得してほしい。そのためにも、常に自分自身がゴードン・メソッドを実践し、模範を示すことで伝えていきたい」と、先生方への愛情あふれる想いを語ってくださいました。

ゴードン・メソッドで変わった私の子ども対応
−第一法から第三法へ−

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東京都 公立小学校教諭
井上 直登氏

井上さんとゴードン・メソッドとの出会いは2年前の夏。第一法的な指導方法に嫌気がさし、第二法にきりかえてみても、子どもが生き生きと伸びていかず、自分自身の対応にジレンマを抱えていた時期でした。これまでのやり方ではない、新しいコミュニケーションの方法を学ぶことに大きな期待と希望を感じた井上さんは、教師学一般講座での学びを積極的に実践されていきます。初めて「わたしメッセージ」を子どもたちに伝えた時の、“生徒全員としっかり目が合い、心が通い合った瞬間”を、“衝撃的な体験”として語ってくださいました。

また、生徒の家庭を訪問し、解決策を本人たちで探せるよう、生徒と家族の間に立ちながら「第三法」での話し合いを援助した事例を題材にして、参加者がグループになって解決策を出し合い、評価し、決定するまでを体験。グループ全員が納得できる解決策を協力しながら探していく楽しさを味わいました。

低学年(1年生)への実践事例では、井上さんが日々ゴードン・メソッドを意識して実践することで、子どもたちも「能動的な聞き方」、「わたしメッセージ」を使いだし、クラスに自然に浸透していったことや、クラス全体が居心地のよい穏やかな空気で包まれるようになっていったことが、子どもたちとの微笑ましい会話とともに紹介されました。

教師学を学んだ今、“教師である前に一人の人間として、自分の気持ちを尊重していいのだ”と思えるようになったという井上さん。「以前は“教師として”こうあらねばという強迫観念にも似た思いにとらわれすぎて、自分の気持ちをごまかしていたような気がします。教師学の学びによって、そこから解き放たれ、“教師としてではなく、井上直登”という人間として自分らしく生きながら、お互いを大切に思えるような関係を築いていけると考えています」という、静かな自信に満ちた言葉が印象的でした。

教師学を活用した特別支援教育
−ひろがる、つながる支援をつくるために−

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神奈川県 公立小学校特別支援教育担当非常勤講師
和田 幸江氏

公立小学校の特別支援学級を担当して4年目の和田さん。就任当初は、習得された専門的知識やご自身の熱意が、支援を必要としている相手に思うように届かず、一体どうしたらいいのか…と葛藤や迷いの時期を過ごされたそうです。いろいろと方策を手探りされる中、教師学講座に出会い、相手とのやりとりを変えたことで、「自分からの一方通行」ではない「双方向」のコミュニケーションがとれるようになったとのこと。支援の質が変わり、支援の場が大きく広がった様子が実際の事例を通してシェアされました。

事例紹介では会話の一部が空欄にしてあり、会場の皆でどんな言葉があり得るかを一緒に考えたり、もっと別の方法があるとしたら何かを出し合ったりして、教師学スキルの多様性についての理解を深めることもできました。

「特別支援が必要な子どもたちは、それぞれに抱えている個別の課題があるので、周りの大人は良かれと思い、ついすぐに解決してあげたくなる。そのため、子どもの気持ちや考えをしっかり確認することなく飛び越えてやってしまいがち。だからこそ、そこで教師学講座での学びや考え方が生きてくる。子どもの思いに蓋をせず“聞いて”こそ、子どもの本当のニーズを把握できる。そして、そのニーズに応えられるよう、専門的知識が必要な時はその都度“伝えて”いく。教師、子ども、教師同士、保護者が手をつなぎ、連携を広げながら、支援を行えるようにしていきたい」とおっしゃる和田さん。

教師学のスキルを活かしながら子どもへの的確な支援が素早くできるようになり、信頼関係を築けるようになった実感を胸に、何より「子ども本人が置き去りにならない支援の形」を目指していきたいという未来への抱負を語ってくださいました。

【全体シェアリング】

全体シェアリングの様子

ここまでの時間は、事例発表を聞いて討論をしたり質問を出し合ったりして過ごしましたが、最後に全員で大きな輪を作り、一日過ごした感想などを分かちあいました。

◎参加した方々の感想の一部をご紹介します。

「目の前にいる人をまずよく見ること、この人がどんなことを感じているのかキャッチしながら対応していくこと」の大切さを知りました。

事例発表を自分自身の体験と重ね合わせて聞きました。自分自身を振りかえる良き時間となりました。

教育現場の先生の日々のご苦労を知りました。また、参加されている先生方の真心にうたれ、「こんな先生たちがいたら、学校が変わる!」と実感しました。

ゴードン・メソッドは、「人としての関わり」全般に適用できると感じました。生れてから死ぬまでのあらゆる人間関係、様々な場面で実践していけると思いました。

つい、すぐに自分の意見を言いたくなってしまうので、「とことん、相手の話に耳を傾けること」や「相手の考える力を信頼すること」を心に留めたいと思いました。

自分から教師学のやり方を発信していきたいと思います。そのために自分は何から始められるのか、何ができるのか整理をしていきたいです。

一年に一度、教師学事例研究会の場で多くの人とゴードン・メソッドの学びや気づきを共有することで安心できます。そして、教師学での対応の確かさを再確認し、自分を取り戻し、保っていけます。

今日初めて教師学のアプローチを知りました。この対応で周りと接していけば、誰もが困らず問題を解決していけるのではないかと感じました。これから自分が実践を始めながら、部下や仲間、上司にも勧めたいと思います。

教師学を学び、ぶれない軸を手に入れ、変化してきた自分がいるからこそ、今こうして前向きに働くことができているのだと気持ちを新たにしました。

 
全体シェアリングの様子

全体シェアリングで自由に感想や意見を述べる中、議論になったのは、“子どもが「○○がいやだった」「○○が苦手だ」といった否定的な感情を言葉にできる大切さについて”でした。

子どもが自分の気持ちを言っても言えなくても、そのままを認めながら、私たちはどんな援助ができるか。代わりにしてあげるのでなく、させるのでもなく、子どもが自分で解決できるようになることを願って…。教師学でのスキルを使って子どもを援助しようとする際の姿勢や目的について、参加者の一人ひとりが改めて見つめ直す時間となりました。

また、様々な出来事がいろいろなパターンで起きてくる現場では、その時々の必要性に応じた対応をしたり、せざるを得なかったりするけれど、教師学という“どこに戻っていけばよいか”がわかる原理原則を持っていることは、自分のしていることを明確にする強みなのだと理解できました。

最後に教師学事例研究会の野利雄実行委員長が、「それぞれが自分の場でスキルを実践し、自分を活かし、人を活かす…。そのために一年に一度、集って、気づきや思いを交換することが大きな力を得ることに繋がると思いますし、このような集いが全国各地で開かれていくことを願います」と述べ、盛会の裡に幕を閉じました。