2021年教師学事例研究会のご報告

―教育とコミュニケーション力(りょく)―

今だからこそ教師学を意識して
〜子どもたちの笑顔のために〜

2021年11月14日13:30〜16:30、コロナ感染の不安が残る中、参加者の安心安全を考慮し、今年度はオンライン形式での実施となりました。初の試みで不安もありましたが、全国から約50名のみなさんの参加がありました。
4名の発表者からは、コロナ禍の今だからこそ「教師学を知っていてよかった」と感じたことや、「もし教師学を知らなかったら…」と思ったことなど、学んだことで子どもたちばかりか、自分自身も助けられたという具体的な実践が報告されました。

1.実践者の事例発表

「教師学」「親業」と出会って

群馬県前橋市私立二之宮保育園園長 村中 照世さん

実践者の事例発表(1)

村中さんが園長を務める保育園(園児280名・職員90名)では、すべての職員がゴードンメソッド(GM)を学んでいます。
コロナ禍で行事の変更を余儀なくされたのですが、できるだけ子どもたちが楽しめる方法を模索し職員間で話し合いを続けたそうです。その際、みんながGMを知っていたからこそ率直に自分の思いを伝えたり、同僚の異なる意見を受け止めたりすることができ、協力して新たなスタイルでの実施が可能となったそうです。そして、そのことが子どもたちの笑顔につながったとのことでした。
また、コロナ禍の不安を訴える保護者に対しては「困っているのは保護者」と捉え、能動的な聞き方で気持ちを受け止め、ねぎらいの言葉を伝えることができたので、対応に困り混乱することはなかったそうです。
園児に対しては、全職員がGMを知っていることで可能となった具体的な対応を年齢別に紹介してくださいました。

0歳児:ブロックの取り合いの場面
 言葉がおぼつかない0歳児の表情や態度を読み取り気持ちを確認。

1歳児:絵の具でのお絵描きを嫌がる場面
 能動的に聞くことで自我の芽生えた子どもの本当の欲求を理解。

2・3歳児:粘土工作をまだ続けたい/水遊びをしたくないという場面
 能動的に聞いた後、保育士の率直な自己表現で相互理解を促進。

4・5歳児:鉄棒の取り合いの場面
 「二人がOKな方法を一緒に考えてみない?」第三法での民主的解決。

幼児期からGMの中で育った園児たちは、小学校に入学し3・4年生になると「第一法」の手法を取る友達の話もしっかりと聞きながら、自分の意見も伝えられるようになるという事例の紹介もありました。

最後に、「GMを実践している日々の保育活動をHP等で知り、入園希望者や就職希望者が増えているので、保護者や学童保育の先生方にも親業や教師学を知ってもらうことが今後の目標です」と力強く語ってくださいました。

実践者の事例発表(2)

2.リレー事例発表(1)

介入的援助
〜生徒と父親それぞれに能動的な聞き方を用いた〜

東京都公立小中一貫校教諭 古谷 香代子さん

リレー事例発表(1)

「親業や教師学を知ってから、私もクラスも変わりました。生徒からは優しくなったと言われ、自分がとても楽になりました」という古谷さん。現在は中学3年生の担任。「高校に行け」「行かない」と進路希望が対立している父娘は昨晩から喧嘩状態。古谷さんは三者面談で両者の欲求を能動的に聞きます。

(教師学を知っていたから、父娘の欲求を明らかにして伝えることができた)
T「○○さんは勉強は嫌いだけど、ネイルのことだったら勉強したいと思うのね」
T「お父さまとしては、○○さんの可能性を最大限に伸ばしてあげるために、普通科を目指してほしいと願っているのですね」

両者の思いを能動的に聞いて双方に伝えるだけで、その後の対応は二人にゆだねた(介入的援助)。翌朝、生徒から笑顔で「面談の帰りにお父さんと二人で普通科の高校を見学に行った〜」という報告があった。

(もし、教師学を知らなかったら…)
T「お父さんの言う通り普通科にしたら?」
T「提出物だけでも出したら?」

あれこれと提案していたかもしれない。

その後、積極的に課題に取り組み始めた生徒に「あなたが決めたことをやっているのを見て、嬉しいよ」とわたしメッセージで伝える日々が続いているそうです。

2.リレー事例発表(2)

教師学を学んで
〜保護者対応からの気づき〜

東京都公立中学校特別支援教室専門員 宍倉 みどりさん

リレー事例発表(2)

以前の勤務校は警察のパトロールが必要なほど荒れていて、生徒指導を強化した。しかし、生徒を力で押さえつける指導は効果が出ず、逆に生徒と心が通い合わなくなり先生方は疲弊していった。そんな時に教師学を知り学び始めたのだそうです。
その後、特別支援学級や特別支援コーディネーター等も担当していたので、保護者とのかかわりも多く、教師学を取り入れた対応を意識なさってきたそうです。今回は教師学を知っていたからこそできた母親面談の実践報告です。

(教師学を知っていたから、能動的に聞けた)
母「私は特別支援学級が息子には合っていると思うのですが、主人が認めないのです」
T1「お父さんが特別支援学級で学習させたくないというので困っているんですね」

(もし、教師学を知らなかったら…)
T2「今の状態では本人を苦しめるだけですよ。本人のためにもどこで学ぶのがいいのか考えていきましょう」

「こちらは助言のつもりで発するT2の言葉ですが、母親は追い詰められたと感じるかもしれません。しかしT1のように教師が能動的に聞くことで母親は解決方法を自分で見出しました。助言は相手の心を閉ざしますが、能動的に聞くと相手が自分で問題を解決していくということを実感しています」と伝えてくださいました。

2.リレー事例発表(3)

コロナ禍だからこそ
〜「どうしたの?」から始める関わりで〜

東京都私立中学高等学校教諭 岡田 憲治さん

リレー事例発表(3)

教師学に出会って10年。現在は中学1年・2年生を担当している岡田さんは、コロナ禍で子どもたちの活動の機会が大きく制限され、生徒も教師も今までの経験が活かしづらいと感じて来ました。特にマスク着用により生徒の表情が見えず、何を考えているのか理解が難しくなったそうです。そんな時、生徒の行動を「行動の四角形」で整理し、困っているサインかもしれないと捉え、先ずは「どうしたの?」と声をかけ始めたそうです。授業中に寝ている生徒がいました。

T「どうしたの?」
生徒「実は緊急事態宣言中にゲームにはまってしまって…困っています」

(教師学を知っていたから、この言葉を生徒が困っていると整理し能動的な聞き方をした)

(もし、教師学を知らなかったら…)
T「授業中に寝たらだめじゃないか」

行動の四角形を使って整理すると聞く余裕が生まれ、生徒の問題にも気づけるし、自分自身の感情理解にも役立っているそうです。また、「対決のわたしメッセージ」や「肯定のわたしメッセージ」は生徒に教師の思いが伝わりやすく、教室の雰囲気が良くなることも実感しているとのことでした。

3.参加者の声(アンケートより)

教師学を実践されている4人の方々の自信と謙虚さの両方を感じ、どちらも実践されているからこそ生まれてくるものだろうと思い、ゴードンメソッドの人を育てる力の凄さに感動しました。

実践されている皆様の日々に感動いたしました。様々なリスクを乗り越えての実践うれしいですね。勇気をもらえます。私もあきらめずに頑張ろうと思いました。

小さいころから子どもたちがゴードンメソッドに触れていることが成長に大きく役立つ、とくに今の教育現場の主体的・対話的な深い学びの核を作っていくのだと感じました。また、教師がゴードンメソッドを知っていることで生徒だけでなく周りに影響を与えていくことを改めて理解できました。

村中さんの発表や質問の答えには、姿勢としての教師学が伝わってきました。またお三方の発表は、現場でのリアルな力強い実践が伝わってきて、どちらも感動し、力をもらいました。(教師学の)効果をデータで伝えられたら〜という思いも理解できる一方、データでは表しきれないものがある…ということ、改めて考えてみたいと思いました。

皆さんの経験や思いをきくことができ、仲間がいることを大変心強く感じました。明日こどもたちに会うのが楽しみです。

教育現場では教師学を学んでいる方、いない方の温度差などがあり、一筋縄ではいかないということ。

全体(自分だけでなく周りも)でゴードンメソッドを学ぶ環境があることが羨ましい…。一人だとへこたれそうになることもありますが、だからこそゴードンメソッド!教師学!と思い「能動的な聞き方」「肯定のわたしメッセージ」を中心に実践していきたいです。

参加者の声

(実行委員長 高野 利雄)

高野さんが言っていた「保護者に役に立つ方法が親業訓練一般講座ですよ」と伝えることも出来ることが分かり、ホッとしました。まずは自分がゴードン・メソッドの実践者であること、これが確かな道だと実感いたしました。

高野さんが、周囲に3人(自分の他にあと2人)の仲間を作ることが、後世にGMを残す上で大切、とおっしゃったことが、とても具体的で今の自分の心に響きました。自分にできることを探っていきたいと思います。

(文責 教師学事例研究会実行委員会)