2005年6月号
親の悩みアラカルト6

ほとけの子

「今日の講座でこの話を聞いてほしくて!」
と「親業訓練講座」受講中の順子さんが、嬉しそうに教室に入って来られました。
順子さんは3人のお子さんを育てながら、保育士の仕事をされています。ご自身の子育てにも仕事にも、「親業」が役に立つとの思いから受講されていました。その順子さんのお話です。
朝の登園前の出来事です。私は「あれもして、これもして」
と焦っているにもかかわらず、次男は大好きな電車の絵本を見ていて支度する気配がありませんでした。そこで私の気持ちを伝えてみました。
「お母さんさぁ、宗介を送るのが遅くなると『保育園のお仕事に遅れちゃうっ!』て車のスピードをすごく出しちゃうの。何だか事故を起こしそうで怖いな」
すると、ぱっと絵本を閉じて「じゃぁ、帰ってきてから見よう」
と言って自分で支度を始めたのです。宗介の素速い変わり様はまさに親業マジック。前日に運転免許の更新手続きに行き、免許センターの職員の方から聞いた、朝急いで出勤して事故にあった事例等を思い出し、今の自分の気持ちをそのまま伝えてみただけなのです。これが「わたしメッセージ」の効果なのかなぁとあらためて思いました。
保育園に向かう車の中で、
「今日は宗介が自分でさっさと支度したから、いつもより早く出てこられたよ。安全運転でお仕事にいけるなぁ。ありがとう。」
と伝えました。宗介もニコニコしています。交通事故防止にも役立つ「親業」・・・・・・万歳!これからも、家族や職場での人との関わりの中でどんどん親業マジックを体験していきたいわ。
「わたしメッセージ」は、相手を非難せず、「あなたの行動が、私にこんな影響を与えて、私はこう感じています」と伝えるものです。子どもを叱ったり、命令したり、説教するのではなく、困っている私が思うことをありのまま伝えるので、言われた子どもも親に協力しようと言う感情が生まれやすくなります。そこで子どもは、じゃぁ困っている親のためにどう行動を変えようかと子どもなりに考えるのです。そこに相手のことを思いやる心が育てられることは言うまでもありません。

私は子どもとの間で温かいコミュニケーションをとりたくて「親業訓練講座」を受講しました。大きな副産物として、夫とのコミュニケーションに大きな変化があったことは、これからも2人で歩んでいく人生の宝となりました。
生まれた所も育った環境も違う2人が夫婦として共に生活していくのですから、結婚10数年経ってもなお不満を感じることがあります。細かいことなのですが、夫はトイレで用を足した後、便座を立てたままにしておきます。私が急いで用を足さなくてはならないときなど、その便座を下に下ろさなくてはならないことにイライラすることがしばしばありました。そこで「わたしメッセージ」を夫に言ってみたのです。
「あなたが(トイレで)用を足した後、便座を立てたままにしておくと、私が急いで用を足したいとき、そのまま便器に腰を下ろしてしまってお尻が便器に落ちてしまうのではないか、とあせるときがあるんだよ」
すると夫が、
「へ?そうなんだ・・・・・・。ちっとも気がつかなかった。お尻が便器にはまってしまったらたいへんだね。これからは便座を下げておけばいい?」
と言うのです。思わず2人で笑ってしまいました。この時私は自分の気持ちが夫に伝わったことを実感し、夫の優しさを感じて嬉しくなりました。きっと「親業」を学ぶ前の私だったら、
「どうして便座を下げておかないの?」質問
「あなたってデリカシーの無い人ね」非難
「用を足したら便座を下げておいて!」命令
こんな風に言っていたことでしょう。私の真意は夫には伝わらず、夫も私に対して不満をもったに違いありません。こんな日常のたわいもない出来事で、温かい会話と笑いがあるのを嬉しく味わっています。悩みがあれば、口に出して言ってみよう!まさに親業マジック!万歳!!

佐藤 信子 親業訓練インストラクター
新潟県長岡市在住