2005年7月号
親の悩みアラカルト7

ほとけの子

子どもを育てていると(楽しい。だけど疲れるなぁ)と感じることはありませんか。それは身体の疲れだけではなく、例えば子どもに泣かれたり我がままを言われることで、精神的な疲れを感じるからかもしれません。特に、夏休みは子どもと過ごす時間が長いので、疲れがたまりやすく、イライラしてつい子どもを叱りすぎてしまうことが多いものです。
聡美さんもその1人、幼稚園年長のお姉さんと3歳になる弟の2人のお母さんです。車に2人を乗せて走っていると、些細なことから口げんかが始まり、車の中は大騒ぎ。こんな時、少し前の聡美さんならこんな風に言っていたでしょう。
「こらーっ、うるさい静かにして」
何度も何度も注意しながら走るので、疲れてしまいます。
しかし、聡美さんは「親業訓練」でコミュニケーションの方法を学んだことから、対応の仕方を少し変えてみることにしました。路肩に車を止めて子どもの方を向くと、聡美さんは相手の行動が自分にどんな影響があるのか、そしてその時の自分の気持ちを話してみました。
「お母さんね、2人が車の中で騒ぐと(行動)運転に集中できなくて(影響)、イライラするの(気持ち)。そして、何回も注意することになると疲れちゃう」
この言い方は、「親業訓練」の私を主語にした「わたしメッセージ」と言う話し方です。相手を責めるのではなく、率直に自分の気持ちを伝えています。すると、今度は姉の亜紀ちゃんが口をとがらせて言ってきました。「だってね、嫌だって言っても、和くんがしつこいんだもん」
お母さんは亜紀ちゃんにも言い分があるのだと思いました。そこで「能動的な聞き方」で亜紀ちゃんの気持ちをくんだ後、もう1度「わたしメッセージ」で話してみました。
「そう、和くんにしつこくされて嫌だったね。でも、お母さんは車の中で騒がれるのはイライラして疲れるよ」
それまでお母さんの顔をじっと見つめていた亜紀ちゃんがこくんとうなずくと、今度は弟に向かって言いました。
「和くん、何回も『止めて』って言ってもやってくるから疲れちゃう」
聡美さんは亜紀ちゃんの話し方が自分にそっくりなので、思わず笑ってしまいました。子どもたちも笑い声につられて、車の中は大爆笑。
「さぁ出発」
車を走らせながら、聡美さんは今まで味わったことのない、さわやかな気持ちを感じていました。(怒って静かにさせていた時と、何かが違う)。
聡美さんはもっとこのやり方を使ってみたくなりました。そこで以前から夫が話を聞いてくれないことを思い出し、その気持ちを「わたしメッセージ」で伝えてみました。
「子どものことで大事な話があるんだけど、テレビを見ながら聞かれると、話が伝わってるのかどうか心配なの」
「だって今いい所なんだ」
「そう、今いい場面だから見たいのね」
「うん、後10分したら終わるから。そうしたら話聞くよ」
以前なら待てずに怒っていた聡美さんですが、この日はお茶を入れながら待つことにしました。すると、10分ほどで夫がテレビを消し、「話を聞くよ」と言ったのです。(あの人はちっとも分かってくれない)と思っていましたが、自分の対応を変えてみると、相手の出方も変わることを経験しました。
夫にお茶を入れる聡美さんの顔はほころんでいます。「何度同じことを言っても聞かない人」が家族にいませんか。自分は「何」を「どのように」伝えているのか見直してみるのはどうでしょう。

星 美保 親業訓練インストラクター
宮城県唐桑町在住