2005年8月号
親の悩みアラカルト8

ほとけの子

Kさんは子どもが寝る前に本を読んであげることを習慣にしています。
最近、8歳の娘と5歳の息子が「これ読んで!」と持ってくるのが長いお話になってきました。Kさんは読んでいる途中でウトウトしてしまうことがしばしば。子どもは怒るし、Kさんだってまだやりたい事が残っていて、寝てしまうわけにはいきません。
「もう今日はここまでね!」と一方的に言うと、「え〜っ!もっと読んでよ!」と子どもたち。
お互いイライラし、かんしゃくを起こし、結局最後はいつも「いいからもう寝なさい!」で済ませる始末です。
せっかく穏やかな気持ちで眠らせてあげたいとの思いから始めた「読み聞かせ」も、これでは台無しです。
それに何と言っても、いつも力ずくで一方的に終わらせてしまっていることが、子どもの気持ちをないがしろにし、自主性を摘み取ってしまっているような気がして、Kさんはいつも後ろめたい思いでした。
そこでKさんは子どもと良いコミュニケーションが取れるようにと、最近通い始めた「親業訓練講座」で習ったばかりの「勝負なし法」を思い切って試してみることにしました。
これは親と子が対立した時に、お互いの気持ちを話し、「ではどうしたらお互い満足できるか」のアイデアを出し合い、一番良い方法を決めるというやり方です。
子どもは「読んで欲しい」、母親は「それ以上は続けたくない」との対立状況です。
母「2人が読んで欲しいと持ってくる本を本当は全部読んであげたいんだけれど、最近お話が長くて、お母さん途中でくたびれて眠ってしまうでしょ?」
子「そうだよ!もう、いっつもなんだから!」
母「いつも寝ちゃうからイヤなのね。お母さんも、まだお仕事が残っているからそのまま寝ちゃうわけにはいかないし、でもあなた達に本は読んであげたいの。どうしたら良いか3人で相談しましょうよ」と、鉛筆、紙を用意しました。
それを見た2人は興味津々。
母「ここに3人から出たアイデアを全部書いて、その中からどれが良いかをみんなで決めるんだよ」
「じゃ、書いて書いて!」という事で、どうしたらいいか、考えを3人で出し合いました。

  1. ママがいっぱいお昼寝をしておく
  2. 今日はボクのを読んで、明日お姉ちゃんのを読む(息子)
  3. それぞれの本を途中まで読み、翌日に続きを読む(娘)
  4. ボク5歳だから5ページ、お姉ちゃん8歳だから8ページ読む(息子)
  5. 短いお話だったら両方読んで、長いのだったらその時に何ページまで読むか決めて読む(ママ)

これらを全員で一つ一つ検討した結果、3、4、5をミックスしたアイデア・・・・・・「短いのだったら全部読んで、長いのだったら5ページと8ページそれぞれ読む」という事になりました。
早速、その夜から実行しました。すると驚いたことに姉が、「ママ、もし疲れてたら両方5ページでいいからね。残りは私が読んであげるから」と言ってくれたのです。自分たち自ら参加した「話し合い」で、各々が一人前として扱われた、と感じて嬉しかったようです。そしてKさんも「ここまで読めば終わり」と思えることで心に余裕が持て、心を込めて読めるので、読むことが負担であるどころか楽しくできるのです。
Kさんは、「勝負なし法」をやってみて、「幼い子を相手に話し合いになるのかな?と半信半疑で始めましたが、いろいろなアイデアが出て驚きました。改めて子どもたちの成長を知ることができましたし、お互いをより一層身近に感じられ、そして日々、時間に追われている生活だけれど、同時に今、『かけがえのない時を過ごしているんだなぁ』と子どもをいとおしく感じました」と話されていました。
そんな幼い子にも欲求はあります。そしていくら親子であっても別の人間である以上、対立はつきものです。対立を恐れることはありません。肝心なのは「どう解決したか」なのです。
本音を伝え、子どもの言い分に耳を傾けながら、ともに解決する醍醐味を味わうことで、お互いへの「信頼」のある家族の関係が育っていきます。
Kさんはこうした日常の中での親子の関わりを通して、我が子が人とのコミュニケーションを恐れず、楽しいこととして捉えながら成長していって欲しいと願っています。

中村 ますみ 親業訓練インストラクター
東京都町田市在住