2005年9月号
親の悩みアラカルト9

ほとけの子

夏休みの間、Kさんのお家でもお母さんは大忙しでした。
年少のカズ君と年長のハルちゃんの2人姉弟がお家にいるので、食事のしたくや洗い物がふえ、洗濯物も汗かきの子どもたちの分が多く、いつもの倍くらいです。
せっかくのお休みなので、子どもたちと一緒に過ごす時間も充分とりたいし、と考えて、お母さんは大忙しではりきっていました。
そんなある日、お庭にいたハルちゃんとカズ君が、戻ってきて言いました。
「お母さん、お庭のお花がくたっとしてたの。水やりしてきたよ」
夏の強い日差しで朝の水やりだけではたりなかったようです。家事に忙しかったお母さんは、
「2人ともありがとう。お母さん気付かなかったわ。お手伝いしてくれて、助かるわ。うれしい!」
と、思わぬお手伝いに、にっこりして言いました。子どもたちもうれしそうです。
お母さんは、その日の残りの家事を心かろやかにすませ、子どもたちとの楽しい時間を持つことができました。
そして、夏休みの間、子どもたちは、自分からはりきってお庭のお花の水やりを続けたのでした。
このところ、子どもたちの行動で、お母さんがうれしくなるようなことがたくさんあります。自分からのお手伝いや食事を残さず食べること、2人で仲良く遊ぶことなどです。
そして、お母さんは、子どもの行動でうれしかったときには、その気持ちを素直に子どもたちに伝えるようにしています。
そのときに使うのが、「親業」で学んだ「肯定のわたしメッセージ」です。
「親業訓練講座」では、子ども(相手)の行動で親(自分)が受ける喜びや安心感、幸福感、感謝といった肯定的なさまざまな感情を、「肯定のわたしメッセージ」で表現します。たとえば、
「お手伝いしてくれて(わたしは)助かるし、うれしいわ」
と、親(自分)の側の気持ちを伝えるのです。
子どもは自分の行動で親がどんな気持ちになったかがわかり、親の人間性にふれることができます。
「肯定のわたしメッセージ」のもう1つの特色は、
「お手伝いして、(あなたは)いい子ね」
と、子ども(相手)をほめるのとは大きく違うということです。
ほめた場合、子どもは、ほめられるから行動をする、ということになってしまいがちなのに対して、「肯定のわたしメッセージ」で伝えた場合は、子どもが自分で、自分や相手の気持ち、状況を考え、行動するので、自主性、自立心が育まれるのです。
Kさんは「親業訓練講座」で日頃の会話をふり返り、子どもたちに、「わたしは、うれしい」などの気持ちを表現することが少なかったと気付きました。
それどころか、
「カズ君は残さず食べていい子ね。いつもそうだといいね。さあ、お姉ちゃんも見習わなきゃ」
など、ほめてきちんとさせよう、という気持ちがあって、子どもたちの行動が、ほめられるようなものでないと、イライラしていたのだと反省しました。
そこで、肯定的な感情を素直に表すことを心がけたのです。
「お食事パクパク食べると、作ったかいがあって、うれしい!」
「2人で仲良く遊んでいるのを見ると、お母さんも楽しい気持ちがしてくるのよ」
このような言い方で、親も子も伸び伸びして、温かな心になり、親子の関係もより豊かになっていくのを、また、子どもが自分から行動していくのを実感できました。
今では、日常的に、たくさんの「肯定のわたしメッセージ」を使って素直な気持ちを伝えています。
そんなお母さんに子どもたちも、
「お母さん、大好き!」
明るい声をひびかせています。

渋谷 さとみ 親業訓練インストラクター
石川県金沢市在住