2005年10月号
親の悩みアラカルト10

ほとけの子

あなたはどんな音楽が好きですか?好きな本のジャンルや服の好みは?また、物事の善悪に対する考えや、何を大切に思うかといったあなたの価値観はどんなものですか。
「こんな子に育ってほしい」という願いが親にはあるものです。それは親の価値観から来ています。やさしい子に・・・・と願う親は、わが子がお友達や兄弟におもちゃを貸さない姿を見ると、このままでは心配だと感じるでしょう。そんな時、「いじわるしないの」「おもちゃを貸してあげなさい」などという言葉で思いを伝えようとするかもしれません。しかし、親の思いを伝える方法は言葉だけではありません。
価値観を伝える方法の1つに、親が子の模範になるというのがあります。幼い子どもは実によく親の行動を見ています。そしてまねをします。娘がお母さんそっくりの口調で弟を叱っているのを見て驚いたり、食事中にマンガを読む息子を注意したら「お父さんだっていつも新聞読んでるよ」と言われた、などということがありませんか。
子どもにこうなってほしいと望むなら、親が自ら実行して子に見せることです。毎日の生活そのもの、生き方そのものが子どもの模範となっています。これには即効性はありませんが、少しずつ確実に影響を与え続けていきます。「子どもは、親が言うようにではなくするように育つ」というのはよく聞く言葉です。
私がまだ幼い頃、父と2人でバスに乗りました。車内は空いており、1人がけの椅子にそれぞれ座りましたが、しだいに混雑してきました。父が「淳子、こっちへおいで」と言ったので父の元に行くと、父は黙って私を膝の上に座らせました。私が座っていた場所には他の誰かが座りました。たったそれだけの出来事です。でも、今も鮮明に私の記憶に残っているのです。父は「混んできたから席を譲りなさい」とは言いませんでしたが、さりげない思いやりの表し方に今でも心がほっこりと温かくなると同時に、親はこうやって子に模範を示すのかという感慨にも似た思いが湧き起こります。
しかし、親が反面教師の役割を果たしてしまう場合もあります。「うそをついてはいけません」と教えた母が、断りの電話をいれる時、来もしない来客を理由にするのを見て、私は「お母さんだってうそをつくじゃないか」と腹が立ったものです。もちろん、母が私の良い手本となった例は数え切れないほどあります。仕事に対する真摯な姿勢や、時節ごとの墓参りを欠かさないなど、私もそのようにありたいと思い、子にも見習ってほしいところです。
このような親の行動を、私は子どもの頃から手本であると意識していたわけではありません。生活の中での親の行動は、時間をかけてじっくりと、そしてしっかりと子どもの中に根付いていきます。いつのまにか親と同じことをしている自分に気付いたことがありませんか?またある時には「こんな時、両親はどうしていただろう?」と行動の手本として思い返すのではありませんか?
やさしい子に・・・と願うのであれば、親自身の言葉や行動もやさしいものであるべきでしょう。あなたはどういう言葉をかけられたとき「やさしいなあ」と感じるのか。どういうことをされたらやさしいと感じるのか。そんな検討も必要かもしれません。そして、あなたがそれをお子さんに行動で示していきましょう。
親が良いことと思ってしてきた行動を、子どもが真似たいと思わなければ親としては寂しい限り。そこで大切なのは、やはり親子の人間関係です。お母さんが好き、お父さんが好き、そんな子どもは素直に親の価値観を取り入れ、大人になってからも親の行動を良い手本として思い返すに違いありません。
「親業訓練講座」では、「模範を示す」ことも親子の人間関係づくりの大切な1つの方法であると位置付けています。あなたはどんな言葉で、どんな行動で子どもの模範となっているのでしょうか?

金子 淳子 親業訓練インストラクター
千葉県船橋市在住