2005年11月号
親の悩みアラカルト11

ほとけの子

子どもの健やかな成長を願うからこそ、人が困ると感じる行動を子どもがした時には叱らなければならないと思っている親は多いと思います。子どものためを思って言っているのに、親の思いが伝わらず、親の言う通りにしない子どもにもどかしさを感じている親も、また数多くあるのではないでしょうか?親は自分の言うことを聞かない子どもに対して、苛立ち、怒りをぶつけてしまう、そしてそんな自分を責め、親としての自信を失くしてしまう、そんな悪循環があるように思います。

私もそんな日々を過ごしていた親の一人です。私は「親業訓練講座」の受講中に、親が「あなたメッセージ」を送り続けているから子どもに自信を失くさせ、自立心や思いやりの心を潰すのだと気付かされました。  私は、居間いっぱいに遊んだおもちゃが出したままになっていたときに、 「出しっぱなしにしないで片付けなさい」 「片付けないと捨ててしまうわよ」 「自分で使った物は自分で片付けなければ駄目でしょ」  などと言っていました。これらは、主語が「あなた」の言葉なのです。子どもは自分が悪い子と責められていると感じてしまうのです。だから、反発して親の言うことを聞こうとしないか、親を恐れて言いなりになるかの行動をとるのです。しかし、そのことに気付いていない私は、 「何度、言っても駄目な子ね」 「言われなければ、やらないのだから」  またまた子どもを責めてしまい、その上、子どもが私の言う通りにならないので、子育てをしている自分に自信を失くしてしまいました。

講座では、「あなた」を主語に相手を責める言い方から、「わたし」を主語に親の気持ちをそのまま伝える「わたしメッセージ」という言い方に変えることを学びました。私はそれを生活の中で実行もしたのです。 「使ったおもちゃを居間にそのままにしてあると、お母さんは掃除するときに、片付けてから掃除機かけなくてはならないので、余分な時間がかかってしまい困るのよ」  すると、子どもたちは暫く考えて、 「箱を持ってきて入れようよ」 「これはまだ遊ぶから机に置いておこうよ」  などと言って、片付け始めたのです。そして、 「お母さんも手伝って」  と助けを求めてきました。子どもたちに自分の気持ちが伝わり、子どもたちの方から自発的に片付けようとしている姿を嬉しく思い、私もさわやかな気持ちで片付けを一緒にやりました。

「わたしメッセージ」は、子どもの行動が親にどのような影響を与えて、どのように感じたのかをありのままに伝える言い方です。子どもには親の気持ちがまっすぐに伝わり、親の気持ちを考えて、子どもの方から自発的に協力しようと思うようになるのです。  「あなたのため・・・・・・」などという枕詞がなくても、わたしを主語に語れば親の思いは伝わります。幼い頃から親の思いを伝えられ、親の愛情に満たされながら成長している子どもを社会に送り出しましょう。そのために、親がコミュニケーションの能力を身に付け、愛情がまっすぐに伝わる言葉を、幼い頃からたくさんかけていきましょう。

私は片付けを終えてからの喜びの気持ちも「わたしメッセージ」で子どもに伝えるようになりました。 「部屋が片付くと気持ちがいいね。お母さんは掃除がやりやすくなって嬉しい。さわやかな気分だなぁ。ありがとう」  すると、 「うん。そうだね。気持ちいいね」  と、子どもから返ってきて、そのときの子どもからの言葉に心のつながりを感じました。

心と心が通い合うためには、親自身が自分の心をしっかりと見つめて表現していくことが必要です。「愛情が伝わらない」と悩んで子育てをしているお父さん、お母さん、自分の心の扉を自分で開いて子どもたちに見せてあげてください。親の心の扉の向こう側には、愛情という宝物がいっぱいに詰まっているのですから。

江崎 英子 親業訓練インストラクター
岡山県岡山市在住