2005年12月号
親の悩みアラカルト12

ほとけの子

忙しく家事をしている時、子どもが親の言うことを聞かないと困ってしまいますね。そんな時、ついきつい声でしかってしまったりしませんか。おだやかに言ったつもりでも、親がイライラしていると、子どもはしかられたように感じることもあるでしょう。親子の思いのいきちがいが積み重なるのは寂しいですね。生活の中で同じようなことが繰り返されるのを避けるために、前もって親の思いを伝えてみてはいかがでしょう。

Oさんは三歳半と一歳の男の子二人のお母さんです。夕食の用意をしていると、兄がいろいろなおもちゃを持ってきて、テーブルの上をちらかしてしまいます。イライラしてちらかす度にしかっていましたが、ある時こんな風に語りました。
「おにいちゃんがテーブルの上におもちゃを置くと、ごはんやおかずが置けなくて、ママ困ってしまうの」
それでも、車を動かして遊んでいるので、
「パパも、もうすぐ帰ってくるから、早く用意しておきたいなぁ。テーブルの上に魚のお皿置けると、ママうれしいなぁ」
そしたら、母親の手に持っている魚の皿をじっと見て、「ウン」と言って遊ぶのを止め、おもちゃの車を持って立ち上がっていきました。
また、こんなこともありました。Oさんは二人を連れて、時々実家へ行きます。帰り際必ず、「弟をおばあちゃんの家へ置いていこう」と兄が言うのです。そこで、ある時こんな風に言いました。
「Bくん(弟)をおばあちゃんの家に置いていくと、おばあちゃんミルクもあげられないし、曲がっている腰も痛いだろうなって、おばあちゃんのことが心配になってしまうの」
「そうか、おばあちゃん大変なんだ」
「うん、この頃おばあちゃん目もよく見えないっていうので、Bくんを置いていくと、とっても大変だろうなぁって、ママ心配なの」
そしたら、何と、弟に呼びかけるようにして、
「Bくんも一緒に帰ろうねぇ」
と言ったので、Oさんはとてもびっくりしました。

親が子どもとの接し方を学ぶ「親業訓練講座」には、「わたしメッセージ」と呼ばれるコミュニケーションの方法があります。子どもの行動で、親がイライラして「テーブルで遊んじゃダメよ」とか、「小さい赤ちゃんを置いていくなんて、できるわけないでしょ」などと、親の考えを押し付けたりする前に、親として「こうしてほしいなぁ」という願いを、子どもに分かりやすい言葉で語ることで、親子の対立を解決しようと呼びかけているものです。それには「わたし」を主語にして親の思いを語ることが大切なのです。

Oさんは後でこんな風に私に言って下さいました。
「弟のことではなく、兄も大好きなおばあちゃんへの心配を言ったことで、小さい弟を置いていってはいけないことを悟ったようです。そして、これまでのことをいろいろ考えたんですが、兄は、母の私を弟にとられてしまったようで寂しいんだということに気付きました。それからは弟が昼寝をしているような時は、つとめて、兄と二人で楽しく遊ぶように心がけています。この頃は、兄として弟をかわいがることがとても多くなりました」
「わたしメッセージ」を言おうと心がけた結果、兄の気持ちも分かってあげられたんですね。このように、「わたし」を主語に親が話すことは、子どもに分かりやすい言葉になります。

また、親子の対立が起こる前に、おだやかな親子関係にある時に、常日頃考えていることや、親の気持ち、予定等を事前に伝えておくと、問題を起こさずにすみます。これは「予防のわたしメッセージ」と呼ばれ、親の考え方が伝わりやすいのです。
子どもだけでなく、他の方々にも「予防のわたしメッセージ」を送って、温かい人間関係を作っていけたらすばらしいですね。

斎藤 エツ子 親業訓練インストラクター
栃木県今市市在住