2006年1月号
親の悩みアラカルト1

ほとけの子

子どもの言ったり、したりしている行動の中に「ん!?いつもと何かちがう」と感じることはありませんか。沈みがちだったり、お母さんにまとわりついてきたり、イライラして怒りっぽかったり、はしゃぎ過ぎたり・・・・等など。
それは、子どもが出しているSOSのサインかもしれませんね。
子どもからのサインを、家事に追われ、つい後回しにしてしまうのか、それとも、ちょっと立ち止まりサインに付き合うか、ここは大きく分かれるところです。
「親業訓練協会」の講座に参加した浅田さんは、九歳、六歳、四歳の男の子を持つ働くお母さんです。講座の二回目で、「子どものサインに気づき能動的に聞く」ことを学習して、すぐに一つの出来事が起こりました。浅田さんが、夫と言い争いになったのです。「ごめん」と謝ってきた夫に対し、気持ちの治まらない浅田さんは、無視してしまいました。気持ちを静めようと、一番下のやすし君四歳を誘って、お風呂に入ってすぐのこと。
「お母さん、あれはお父さんが悪いんじゃないんだよ。オレが悪いんだよ」
浅田さんは、やすし君の<オレが悪いんだよ>の発言に、おどろきました。やすし君のことで言い争っていたわけじゃないこと、またやすし君は、普段、自分のことを「やっちゃん」と言ってること。いつもと違う・・・サインかも・・・。
そう思った浅田さんは、「いや!やすしは、悪くない!」と言いたかったのを抑えて、まず、やすし君の気持ちを確認することにしました。
母「えっ?やっちゃんが悪いと思ってるんだ」
子「うん。お父さんは悪くないんだよ」
自分のせいにしてでもお父さんをかばいたい気持ちが伝わった浅田さんは、その気持ちを受け入れて、
母「そう、お父さんは悪くないんだね」
浅田さんがやすし君の言っていることを確認していたら、突然やすし君がこんなことを言い始めました。
子「あのね、『ごめんね』って言われたら、ちょっと話して『いいよ』って言うんだよ」
母「ちょっと話して『いいよ』って言うんだね」
子「そうだよ!ちょっと話して『いいよ』って言うんだよ!」
四歳のやすし君が、一生懸命「そうだよ!」と答えました。両親に何とか仲直りしてほしいという思いが、よく表れています。浅田さんはやすし君のその思いにこたえたいと思いました。
母「わかったよ。お風呂から上がったら、お父さんと話してみるね」
子「よかった!」(ほっとした様子で・・・)
その後、浅田さんは、お風呂上がりに夫と話し、「いいよ」と言って夫の謝りを受け入れました。そのことを見届けたやすし君は、照れたようなうれしい顔をしていたそうです。
やすし君は、両親の間に流れる気まずい空気を敏感に感じ取ったのです。そして不安な気持ちになりました。そんなやすし君の思いを、お母さんがそのまま受け止め確認したことで、やすし君はお母さんに自分の気持ちが理解されたと感じ、心が軽くなっていったのです。
子どもからのいつもとは違うサインに気付いたとき、子どもの気持ち−くやしい、悲しい、嫉妬心、みじめ−に焦点をあてて話を聞くことを、「親業訓練協会」では「能動的な聞き方」と呼んで、特別に学びます。
サインは子どもによって、いろいろな形で表れてきます。子どもからサインが出たとき、親は「何だか言わなきゃわかんないでしょ」と、子どもに迫ることが多いのですが、もやっとした気持ちの正体を言葉にし、「助けて」と言える子どもは多くありません。むしろ、自分でもよくわからず、無意識に態度や表情に出てしまうことの方が、少なくありません。また、サインの中には、反抗的な態度や八つ当たり的な態度で、親の気持ちを逆なでする様なものもあります。
子どもからのサインである「いつもと何か違う」言動に、親だからこそ気付いてあげられるアンテナ(直感)を磨きたいですね。そして、子どもの話に耳を傾けられる親でありたいものです。
とは言っても、親も生身の人間、育児や家事に追われ疲れきっているときは、気付かなかったり、後回しにしたり、また、子どもの態度にイライラしたりすることもありますよね。
親も、上手にストレスと付き合う工夫が必要です。安心できる人に胸のうちを聞いてもらい、心を軽くしたり、書くことで親自身の気持ちを整理したり等・・・。
また、知恵を使って生活を効率的にし、親自身のための時間を(わずかでも)作る工夫をしませんか。どう使うかは、あなたにまかされている自分の大切な時間を作るのです。
また、夫婦でよーく話し合い、協力体制を作ることもあきらめないで下さいね。
子どものサインに気が付いたとき、こんな風にしてできた心のゆとりが、仕事を中断し寄り添える力になると思います。

谷口ヒロ子 親業訓練インストラクター
島根県松江市在住