2006年2月号
親の悩みアラカルト2

ほとけの子

お母さんが、困ったなと思う子どもの行動を変えようとして、「早くしなさい」「やめなさい」などと言わない日はないくらいではないでしょうか。
子どもがまだ言葉が分からない頃は、危ないものは手の届かない所に置いたり、子どもが落ちないように手すりを付けたり工夫したものです。けれど成長とともに、命令したり怒ったり、言葉で子どもの行動を変えようとすることが多くなります。無理やり言うことをきかせて、お互いに嫌な思いをした経験も少なくないのではないでしょうか。
「親業訓練」には、子どもとの接し方の一つとして、「環境改善」という方法があります。身の回りに意識を向けて、物理的な環境を変えることで、子どもの行動を変える効果的な方法です。
ここで、実際にこの方法を使った方の例をご紹介します。
五歳の彩夏ちゃんと弟の陽平君は、夜寝る時間になってもおもちゃを片付けないので、お母さんは困っていました。お父さんが帰ってきたときに、きれいな部屋でゆっくりくつろげるようにしたいと思っているからです。
生後六ヵ月の赤ちゃんもいるので、お母さんは毎日大忙し。子どもたちに片付けなさいと言っても、なかなか言うことをきかず、イライラしていました。そこで講座で学んだ「環境改善」という方法を使ってみようと思いました。二人が区別しやすいおもちゃ入れにしようと考え、かごを買いました。彩夏ちゃんにはピンク色、陽平君には青色にしました。そして「お父さんが帰ってきたときに、きれいな部屋でゆっくりできるように、夕食前におもちゃを自分のかごに片付けようね」と伝えました。それからは、何度言っても言うことを聞かなかった子どもたちがすぐに片付けるようになりました。お母さんは、子どもたちが自分で片付ける姿を見て、本当にうれしく思いました。子どもたちのやりやすいように工夫することで、家庭に温かさがまた一つ生まれたのです。なんてステキなことでしょう。
これは、物を加えることによって解決した例でしたが、もう一つ、部屋の中のものを移動させることによって解決した例をご紹介します。
小学校一年生の涼君は、学校に出かけるときに、玄関先で忘れ物に気が付くことがあります。そして「取ってきて」と叫びます。お母さんは二階の子ども部屋に取りに行かなければなりません。けれど、朝の忙しい時間なので本当はとても嫌でした。いつも「朝あわてないように、用意しておきなさい」と言っているのに、同じことの繰り返しで困っていました。どうして自分で行かないのかを聞いてみると、机の所まで取りに行くのがめんどうだというのです。
そこで、「環境改善」で何かできないだろうかと、子ども部屋を見回してみました。涼君の机の横に二段の棚が置いてあります。これを部屋の入り口の所に移してみようと思いました。入り口から机までの距離は、お母さんから見れば短いのですが、涼君にはずいぶん違うようです。移動した棚に、涼君が翌日の用意を整えて、置くことにしました。お母さんも洗った給食袋や体操着入れを置いておくことにしました。それからは忘れ物をしても、自分で取りに行くようになったのです。言葉で繰り返し言うよりも、小さな工夫の積み重ねから、子どもの自主性の芽が育っていくのかもしれません。
「環境改善」によって、子どもが自分でできることがふえると、子どもにも自信が生まれます。親も子どもが頼もしくなり、子どもへの見方が変わると、子どもとの触れ合いも楽しいものへと変わっていきます。もう一度、皆さんを取り巻く環境を見直してみてはいかがでしょう。

山内貴美枝 親業訓練インストラクター
東京都練馬区在住