2006年3月号
親の悩みアラカルト3

ほとけの子

「行ってきまーす!」と元気に登園する子どもの姿は親には嬉しいものです。そんなとき、あなたはお子さんにどんな言葉をかけていますか?「行ってらっしゃい」「そんなに走らないで!」「先生の言うことよく聞いてね」「みんなと仲よくね」などいろいろありますね。
ところで、子どもの元気な姿を嬉しいと感じているその気持ちを、お子さんに伝えたことはありますか?「そんな当たり前のこと・・・」と思われるでしょうか。そんな当たり前のときこそが、心の絆を深める絶好のチャンスなのです。
今までよりも長い時間仕事をするようになった木下さんは、由美ちゃんの園へのお迎えをおばあちゃんにお願いすることになりました。朝夕の慌ただしさに、何気なくしてきた送り迎えです。けれども自分が迎えには行けないと思うと、朝の送る時間がとても大切に思えてきました。迎えに行けばすぐに「今日はね、こんなことがあって、あんなことがあって・・・」とあふれ出るような由美ちゃんの話が聞けたのです。でも、園から帰って時間がたつと由美ちゃんは一段落していて、迎えのときのような由美ちゃんには会えないのです。木下さんはそれをちょっと寂しく感じています。
そこで「親業訓練講座」で学んだ方法の一つ「わたしメッセージ」で由美ちゃんに自分の気持ちを伝えてみようと思ったのです。
「わたしメッセージ」は、自分の感じているそのままの気持ちを、「わたし」を主語にして伝えます。
木下さんは朝、保育園に向かう途中「由美ちゃんが元気に保育園に行ってくれると、お母さんは安心して一日お仕事ができるから、嬉しいな」と言いました。すると由美ちゃんはお母さんの顔を見上げて、キラキラした瞳で微笑んだそうです。そして園へ着くと別れ際には元気に「お母さん、お仕事頑張ってね!」と見送ってくれました。
朝の出来事が嬉しかった木下さんは、帰ってからも「わたしメッセージ」で伝えたいなと思っていました。折よく、その日はお誕生会の出来事を由美ちゃんが話してきてくれました。熱心に由美ちゃんの話を聞き、その後で木下さんは「由美ちゃんから保育園の話を聞くのが、お母さんとっても楽しみなんだ」と言いました。すると由美ちゃんは「そうなの?知らなかった。じゃあ毎日お話するね」と言ったそうです。今までの由美ちゃんは、自分がしゃべりたいからしゃべっていたので、それをお母さんが楽しいと感じていたことは、由美ちゃんには伝わっていなかったのです。その後はお風呂タイムが由美ちゃんのおしゃべりタイムになっているそうです。お母さんの気持ちがしっかり伝わったのですね。
あなたも自分の気持ちを言葉にして伝えてみませんか。子どもにだけでなく夫へ、妻へ「嬉しい、楽しい、ほっとする、助かる」などの肯定的な気持ちを表現してみましょう。最初はちょっと照れるかもしれません。でも勇気を出して言ったとき、言われた相手の心地よさそうな表情は、きっとあなたに何とも言えない幸福感を与えてくれることでしょう。
人の気持ちは言葉にしなければ伝わりにくいものです。温かい気持ちは温かいまま伝えたいですね。この季節、お世話になった先生やお友達に温かな気持ちを伝えることは、何よりのプレゼントになりますよ。

上原奈尾子 親業訓練インストラクター
長野県在住