2006年5月号
親の悩みアラカルト5

ほとけの子

ごめんねの仲直り

子どもの寝顔に向かって「ごめんね」と言いながら胸が締め付けられる。
こんなにいとおしくてかわいい子どもに、「あんたなんかいらない」「何処かに行ってしまえ」とか「お母さんが出て行くから」等、否定や脅迫の言葉を浴びせた経験はありませんか。そんな酷い言葉でなくても、親の一方的な意見を厳しく押し付け、後から言い過ぎたと悔やんだことはないでしょうか。
伊藤さんは一歳と四歳、二人の男の子のお母さんです。長男のかず君には「育てにくいな」という感じを持っていました。つい、親の考えを押し付け、語り聞かせる親の声も大きくなりがちなのです。「良い子に育てたい」と思うし、子どもに「愛情をかけたい」と思うのに、つい厳しくなってしまうことから、この二つを両立させるには、高くて険しい山があり、越えるに越えられないものがあると悩んでいました。そんな時、「親業」を知り、「良い子に育てる」ことと「愛情をかける」こととが両立できることを知りました。それには、親と子の間に本当の気持ちが通じ合う心のかけ橋づくりが大事なことに気付き、実践しています。
ある朝、かず君が「かあか、ごめんね、してないじゃん」と言いながら起きてきました。伊藤さんは「そうだね、ごめんねの仲直りしてなかったね」と言って抱きしめました。最近では、かず君が寂しい・不安・困っているのが分かると、「親業」で学んだ接し方をしてかず君の気持ちを確認するようにしています。例えば、
子:「とうとが怒った」
母:「とおとが怒っちゃったんだね」
子:「うん、怒っちゃったの」
母:「そうか、どうして怒ったのかな」
子:「りゅう君を叩いたから」
(りゅう君は弟)
母:「そうか、それでとおとが怒ったんだね」
子:「うん、とうとがりゅう君だけ抱っこしたもんで」
母:「とうとがりゅう君だけ抱っこしたから叩いちゃったんだね、かず君も抱っこしてほしかったんだ」
子:「うん、そうだよ。僕もりゅう君みたいに抱っこしてほしかったの」
母:「そうか、かず君もりゅう君みたいに抱っこしてほしかったから、叩いちゃったんだね」
「親業」を知る前はこんなとき、「かず君が何かしたから怒られたんでしょう」「悪いことしないと怒られないよ」「とおとに謝りなさい」等、かず君を責めていたのです。しまいにはかず君は泣いたり、すねたりしていました。
しかし、今はかず君は親が自分の気持ちを理解してくれたことが確認でき、安心します。かず君は話しやすくなり、自分の気持ちを表すことですっきりして、「さて、どうすればいいか」と自分で考えるように気持ちが動いていきます。母親も叩いた事情が分かり、父親に事情を説明することができました。
子:「ごめんなさい。かず君も抱っこしてー」「りゅう君ごめんね、かわいいね」
弟の頭をなでるかず君。
父:「そうだったんだ。ごめん、けっちゃって、かずもりゅうも大好き」
かず君の話を「聞く」ことで、泣いたり、すねたりしていたかず君が話をするようになりました。弟を嫌で叩いたのではなかったことが分かったことも、伊藤さんにはうれしいことでした。
「時には失敗もあります。子どもが何か悩んだり、困ったりしていると思っても、聞くゆとりがなくて、泣かせたまま寝かせ、朝を迎えることもあります。しかし、朝には子どものほうから『ごめんねしてないじゃん』と自分の気持ちを伝えたい、お母さんと仲直りしたいと訴えてくるんです。こういう日々の生活の中で繰り返される言葉のやりとりが、子どもの自主性や判断力を育てるんですね。子どもの成長を見ると、驚きとうれしさで胸いっぱいになります」と、かず君の変化を見て伊藤さんは感想を述べています。
「子育てって大変」「どうしてうちの子は親の言うことが分からないのかしら」こんな思いにとらわれたとき、ちょっと視点を切りかえて、子どもの話に耳を傾けてみましょう。思いがけない子どもの世界がきっとあなたを豊かにしてくれることでしょう。

竹内好江 親業訓練協会インストラクター
静岡県袋井市在住