2006年7月号
親の悩みアラカルト7

ほとけの子

遊び続けて帰らない

「うちの子、何度言って聞かせても、分からなくて・・・」
「うちなんて、全然聞いていないのよ!」
お母さんたちから聞こえてくる会話です。子どもに分からせようと、親は一生懸命話しているのに、ちっとも聞いていない様子なので、何度も同じことを言わなければならない、これではイライラがつのりますね。
「親業訓練講座」では、親が子どもに伝えたいことは、「わたし」を主語にした「わたしメッセージ」で語ることを学びます。
講座に参加された坂井さんには三人のお子さんがいます。真ん中の圭くんは四歳で保育園に通っています。姉は小学一年、そして生まれたばかりの弟がいます。保育園のお迎えにはお父さんが行くのですが、圭くんは遊び続けてなかなか帰りません。お父さんは圭くんを家に送った後、すぐに仕事に戻らなければなりません。「早く支度して!」「ほら、帰るよ!」毎日声を張り上げ、引きずるように連れて帰っていました。家に着いたときには二人ともプリプリしていることも多く、坂井さんはとても気になっていました。そこで、圭くんに親が困っていることを伝えるために「わたしメッセージ」を送ることにしました。

お母さんは困っているよ

夜、二人でお風呂に入っているときに、「圭くん、保育園のお迎えのときに、遊んじゃってなかなか帰らないでしょ。お父さんが『もう迎えに行くのイヤだ』って言ってるから、お母さん困ってるんだよ。お母さんはお夕飯の支度もあるし、お姉ちゃんが帰ってくるから家にいなきゃならないし。お父さんも仕事があるから急いでお店に戻らなきゃならないんだけど、お迎えが遅くなると遅れちゃうから、とっても困るんだよ」。その間、圭くんは黙っていました。四歳の子に伝わったのかどうか、坂井さんはちょっと不安でした。
その翌日、迎えに来たお父さんの顔を見ると、圭くんは走ってリュックを取りに行き、さっとお父さんの手を握ったのです。お父さんはビックリしましたが、二人で気持ちよく帰りました。その話を聞き、坂井さんは圭くんをより愛しく感じて「ありがとう」と抱きしめました。
親を困らせている子どもの行動も、子どもは親が何をイヤだと思っているのか知らない場合が多いのです。「わたしメッセージ」で親の側の事情や感じ方を、子どもに分かるように示していきましょう。そのときに、子どもはそういう事情のある中で、何をしたらいいのか、自分で考えていきます。お父さんのお迎えに、さっと帰る支度をしたのは、圭くんの自主的な判断による行動です。圭くんの思いやりでもあります。親のコミュニケーションにより、圭くんの自主性と思いやりが育っています。親のあり方って、大きな影響を与えますね。

コミュニケーションの手段を学ぶ

もうすぐ二歳になるさやちゃんとお母さんの川島さんの例も、ご紹介しましょう。
「さやちゃん、階段はお手々つないで降りよう」
「いや!一人で!」
手を振り払って降りようとするので、お母さんの気持ちを話しました。
「ママね、さやちゃんが落ちて痛い思いをすると、悲しくなっちゃう」
「・・・」
黙っているさやちゃんの気持ちを言葉にしました。
「一人でやってみたいんだね」
するとさやちゃんは、
「階段は危ないね・・・」
と言って、手をつなぎました。

お母さんは、親の気持ちを伝えた後、子どものやりたいという気持ちを汲んでいます。そうしたら子どもが自分で気持ちを切り替えて、行動を変えてくれたのです。

さやちゃんには四歳の兄がいますが、川島さんは「親業」を知って、イライラがぐんと減ったと話しています。
「考えてみたら、私は子どもにどうやって接したらいいのか、誰からも教わっていませんでした。よかれと思って、一生懸命していたけれど、逆効果だったこともたくさんあった。勉強して本当によかったです。子どもたちと過ごす時間がとても楽しくなりました」。
「親業訓練講座」でコミュニケーションの方法を学ばれた方たちが、親として成長される姿に、講座を提供している私は感動することもしばしばです。

森口紀子 親業訓練協会インストラクター
東京都在住