2006年8月号
親の悩みアラカルト8

ほとけの子

平日の朝はいつもあわただしいもの。子どもが気持ち良く目覚めてくれたら・・・ 親であれば願うところです。
Nさんの家庭は子どもが三人。小学生のお姉さんとお兄さんは自分で起きてくるのですが、一番下の年長のさきちゃんは、目覚めるまでにとても時間がかかります。
「起きなさい!」と声をかけてから30分。結局いつも「いい加減に起きなさい!」「保育園に遅れるでしょう!」と雷が落ちる始末。シブシブ起きてくるので朝食もあまり進みません。
そんなに夜更かしさせているわけではないのに。Nさんは毎朝怒っている自分が嫌でたまりません。気持ち良く朝のスタートがきれたらどんなにいいかと困っていました。
そこで、Nさんは子どもと良いコミュニケーションが取れるようにと通い始めた「親業訓練講座」で習った「勝負なし法」を試してみることにしました。
これは子どもの行動に「嫌だな」「変えてほしい」と感じたり、親と子が対立したりしたときに、お互いの気持ちを話し、お互い納得のいくアイデアを出し合い、一番良い方法を決めるという方法です。
夕食を済ませ、ゆったりとくつろいでいるとき、さきちゃんに声をかけました。
「ねえ、お母さんちょっと困っていることがあるんだけど、お話していい?」
「なあに」
「あのね、朝いつもさきを起こしてもなかなか起きなくて、何度も何度も起こすの大変なの。それにね、最後は『いい加減に起きなさい!」って怒ることになるでしょう。お母さん、毎朝怒っているのがとても嫌なの。さきはどう?」
「お母さんが怒るのは嫌。でも眠いんだもん」
「そう、眠いけど、怒られるのはさきも嫌なのね」
「それでね、お母さんも怒らなくて、さきもそれならいいっていう方法を一緒に考えてみない」
「いいよ」
そこで紙と鉛筆を用意し、アイデアを出し合いました。
(1)目覚ましをかける
(2)顔に水をかける
(3)くすぐる
(4)顔を叩く
(5)お尻をペンペンする
(6)おへそを叩く
(7)いっぱい電気を付けて明るくする
(8)敷布団をどんどん片付ける
出し合ったアイデアを一つ一つ検討したところ、(1)は目覚ましが鳴ってもいつも起きないので効果が期待できなさそう。(2)は布団がぬれてしまっては困る。(3)〜(6)は自分から案を出したけれど、叩かれると痛いので嫌。(7)と(8)が二人共いいということで、この方法でやってみることになりました。「敷布団をどんどん片付けて畳になってもかまわないというのには驚きましたが、本人が納得したので、次の日の朝から実行することにしました。
翌朝、起こしましたが起きません。約束したので電気を付け、布団をどんどんたたむと起きてきました。昨夜の話を覚えていたのでぐずることはありません。
そんな朝が三日続き、四日目の朝のこと。
「おはよう!」と元気な声。
起こされる前に、自分から起きてきたのです。すがすがしい表情で、我が子がひと回り大きく見えました。
さきちゃんは、その日を境に自分から起きるようになり、さらにお姉さんやお兄さんまで起こしてくれる程になったのです。
Nさんは今まで子どもの行動に文句ばっかり言って不機嫌になっていたけれど、親の気持ちを率直に伝えると子どもも真剣に考えてくれること、また、子どもを一人の人格として認め、同じ話し合いのテーブルに着くことで、親を信頼し、自分で問題を解決する力のあることを改めて実感しました。大人の関わり方で、こんなにも気持ち良く子育てが出来るんだと嬉しそうに話してくれました。

藤沼直美 親業訓練協会インストラクター
神奈川県横須賀市在住