2006年9月号
親の悩みアラカルト9

ほとけの子

小学生になったら一人で学校に行く我が子。
親は、小学校入学までに、何とか基本的な生活習慣を身につけさせようと思います。でも、なかなか思うようにいきません。それどころか、お母さんの仕事が増えてしまったり、言うことを聞かない子どもに、がみがみ当たってしまったり。我が子ながら憎らしくなったり。そして、愛する子どもに対して、また、こんな感情を持つ自分に嫌悪感を抱いたり。
さやちゃん五歳。りゅうちゃん四歳。あーちゃんニ歳のお母さんの山田さんもその一人。
毎日たくさんの洗濯物が出ます。山田さんは、それをきちんとたたみ、それぞれの整理ダンスに仕舞います。ホッとするのもつかの間、お風呂のときには、
「お母さん、パンツ持って来て」
「お母さん、パジャマは?」
「お母さん、タオルないよ」
と、大声が聞こえてきます。お父さんの声も一緒に。
その度に夕食の支度を中止し、用意しなくてはなりません。それもお母さんのイライラにつながります。お風呂から聞こえてくる、お父さんと子どもたちの楽しそうな声にも、本当はお母さんも嬉しいはずなのに、腹が立ってくるときがあります。
「お母さんがきちんと整理ダンスに入れてるでしょ。それをお風呂に持っていくだけが、どうしてできないの」
何度言っても、毎日同じことの繰り返しです。怒鳴るときもあります。言っても、言っても聞きません。
そんなとき、「親業訓練講座」で「環境の改善」という方法を学びました。お母さんは考えてみました。
「子ども一人ひとりの引出しを決めていても、パジャマ・下着・タオル、別々に仕舞ってあったら面倒くさいのかもしれない。さっさとお風呂に入りなさい!と急がせながら完璧を要求するよりも、着替えをお風呂に持って行きやすいようにしたらどうかしら?」
と。
そこで、三人の子どもとお父さんの一回分の着替えが入るそれぞれのかごを購入しました。みんなの好きな色を選んで。
そして、洗濯物をたたんで、お母さんがそのかごにその日の着替えを入れるようにしたのです。そしたらどうでしょう。お風呂のときには、それぞれがちゃんとその自分のかごを持っていくようになりました。小さなあーちゃんまで、お姉ちゃんやお兄ちゃんの真似をして、そのかごを持ってお風呂に入ります。そればかりか、洗濯物たたみもお手伝いするようになったのです。それぞれのかごに区分けして入れてくれます。雨が多くて乾いていないときには、整理ダンスからちゃんとお風呂セットを用意するようにもなりました。お母さんの夕食準備時のイライラが無くなったばかりか、仕事も減りました。  ある朝、みんなの保育園に行く洋服を用意しているお母さんに(イライラした後姿だったかも)、「お風呂かごに保育園の用意も入れといたら、お母さんがみんなの分用意せんでも(しなくても)いいよ」と、あーちゃんが言いました。この言葉に、お母さんは「自分の固定観念バリバリの頭を思い知った」と後で笑っておっしゃいました。二歳のあーちゃんは、お風呂かごの有効活用法を考え、その上、(次の日に着ていくもの・ハンカチ、スモックなどの)保育園の用意を、自分でお風呂かごにちゃんと入れるようになったのです。それも楽しそうに。
視点を少し変えて子どもの行動を観察してみると、環境に加えたり、除いたり、変えたり、計画をしたりするだけで、日常生活がスムーズになり、もっと子どもたちがいとおしくもなります。

きちんと仕付けることが母親の役目、子どものため。でも、言って聞かせ、叱ってやらせるよりも、工夫によって自主性が育っていくこともあります。
親であることについても学んでいきたいものですね。

津川育子(つがわいくこ) 親業訓練協会インストラクター
熊本県美里町在住