2007年2月号
親の悩みアラカルト

ほとけの子

朝、子どもが幼稚園に行くときに、なかなか支度が進まなくてイライラしたり、また、外遊びをしてるときに、ズルズルと帰る時間が遅くなり、子どもに当たり散らしてしまったりした経験はありませんか。
康子さんは、小学校二年生のお姉ちゃん、三歳と二歳の男の子のお母さんです。日ごろ、子どもが親の思う通りにしないと、無理やり言うことを聞かせていました。
三歳のそうた君は、幼稚園に出かける前に大好きなウルトラマンのビデオを見ていて、送迎バスに乗り遅れそうになることが時々あります。そんなとき、康子さんは子どもの様子を見てはイライラしてきます。「早くしなさい。間に合わないでしょ」と叱り付け、言うことを聞かせようとします。しかし、子どもは抵抗したり、泣き出したり・・・最後は、しぶしぶ出かけることになるのです。そんなときは、朝から親子でいやな気分になります。
そこで、友人の紹介で知った「親業訓練講座」に参加し、学んだ方法を使ってみようと思いました。親が子どものしていることでイライラしたり、やめてほしいと思ったりしたとき、「早くしなさい」「何度言ったら分かるの」「いい加減にしないとビデオ取り上げるわよ」など、相手のことを攻め立てる言い方をするのではなく、「わたし」を主語に、わたしの気持ちを表現する言い方「わたしメッセージ」で、自分の困っている気持ちを表現してみました。親が子どもの行動で困ったなあ、その行動を変えてほしいなあと思うとき、相手を非難するのではなく、親がどういうことで困り、どんな気持ちなのかを「わたし」を主語にして伝えるのが「わたしメッセージ」です。
「そうたが出かける前にウルトラマンのビデオを見ていると、支度に時間かかるし、バスに乗り遅れるんじゃないかと心配だなあ」。
すると、そうた君は「最後まで見たい」と言いながら、まだビデオを見ています。いつもならここでビデオのスイッチを切って、無理やり着替えさせ連れ出すこともあったのですが、今日は違います。子どもの気持ちを受け止めました。
「そうか、最後まで見たいんだね」。すると、そうた君は「うん!」と言って、きょとんとお母さんの顔を見ました。そして、ビデオの途中ではありましたが、支度をし始めたのです。このとき、お母さんはあることに気が付きました。三歳のこの子なりにこだわりというか、好きなやま場があって、そこを見終わることが、最後まで見るという意味のようなのです。結局、送迎バスには間に合いました。また、子どもの思いに新たな発見があったことで、とてもうれしくなりました。
親が困っているとき、いやだなと思うとき、子どもの行動を何とかして変えようと思う余り、頭ごなしに命令したり、非難したりしてしまいがちですが、それでは子どもは親が何で困っているのか理解しにくいため、親の困る行動を変えようとはしにくいのです。
こんなとき、「わたしメッセージ」で親の正直な気持ちを伝えます。もし、反発してきたら、そのときの子どもの気持ちを汲むことが大事です。
最近も、そうた君とこんなやりとりがありました。外遊びのとき、夕ご飯の支度の時間にずれ込んでしまうことで困っていました。今まででしたら、「もう帰る時間よ」と、何度も声かけしたり、時計の針を見せたりもしていたのですが一向に腰を上げません。
二歳の下の子もいるので本当に困ってしまいましたが、講座で学んだ「わたしメッセージ」を思い出して言ってみました。
「お母さんね、これから夕ご飯の支度をしなくちゃならないの。お買い物もあるし、遅くなって、ご飯をあわてて作るのはいやだなあ」。しばらくの間の後に、「うん、分かった」と、そうた君が言い、遊びを止め、お母さんと一緒に自転車に乗って帰りました。しかし、走っている途中で、ぽつりと「もっと遊びたかったなあ」と言ってきたのです。「もっと遊びたかったんだね」と、ここで子どもの気持ちを汲みました。すると、「うん・・・ポニーは楽しかったね」とそうた君。
その後は、今日の遊びで楽しかったことを親子でたくさんおしゃべりしながら帰りました。
康子さんは、これからそうた君ともっといろいろ話がしたいと笑顔で語っていました。

平川陽子(ひらかわようこ) 親業訓練協会インストラクター
東京都在住