2012年看護ふれあい学研修会の様子・内容報告

2012年12月9日(日)、看護ふれあい学研修会が金沢工業大学大学院 東京虎ノ門キャンパス(東京都港区)で開催されました。全国から医療・看護に携わる方など約90名の参加がありました。
参加者は、医療現場での貴重な実践報告に熱心に耳を傾けていました。
(主催:親業訓練協会・看護ふれあい学研究会)

看護ふれあい学で 現場がこう変わる

〜医療現場で活躍するふれあいコミュニケーションリーダー〜

冒頭親業訓練協会の高木会長から当研修会へのメッセージが読み上げられました。その後、ワンポイントレッスン(用語の説明)を挟んで、医療現場に従事される方の実践報告がありました。糖尿病看護認定看護師の橋本氏、救急科医師の花木氏、手術室勤務の看護師長の向後氏、救命救急センター師長の林氏の4氏で、それぞれ看護ふれあい学を活かしての医療現場での貴重な実践報告でした。その報告から、医療現場でのコミュニケーションの重要性に気がつかれたのか、その後の全体での討論では、参加者から多くの発言があり、深まった話し合いが持たれました。最後に看護ふれあい学研究会会長の中井喜美子氏のまとめで、次回開催を希望する声も聞かれる中で幕を閉じました。

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※医療現場からの実践報告※

糖尿病看護に活かす

〜発達課題を考慮した「生活期」への支援とゴードン・メソッド〜

橋本 祐子

済生会宇都宮病院 糖尿病看護認定看護師
看護ふれあい学一般講座インストラクター
ふれあいコミュニケーションリーダー
橋本 祐子氏

治療中の患者が社会的意義を感じて、その人らしく生活ができるように支援すること。看護ふれあい学の技法を使った支援その事例を紹介。
(1)一般に患者は、インスリン療法を重症、最終手段だと誤解して、恐怖心を抱いていることが多い。患者にその療法が必要だ、と伝える時は、患者の心理状態を把握し、患者の気持ちを「能動的な聞き方」でしっかり聞いてから話をすることが大切。
(2)自分の状態を、医療者ばかりでなく家族にも理解してもらえないと辛い気持ちを語る患者と、逆に患者が我儘すぎるとこぼす家族からの相談を受けることがあります。このような場合、看護ふれあい学の「コンサルタントの役割」が大きな助けとなります。
聞く、語る、話し合うスキルを学ぶことができる看護ふれあい学は、糖尿病看護に不可欠だと日々実感します。同時に医療現場に携わる人たちがこの技法を「共通語」として使えるようになりたいと強く願っています、と表明。

心の通い合う 救急外来を目指して

花木 奈央

名古屋第二赤十字病院 救急科医師
ふれあいコミュニケーションリーダー
花木 奈央氏

ご自身の看護ふれあい学との出会いから、救急外来におけるコミュニケーションの実践、そして心の通い合う救急外来を目指して努力している報告がありました。
☆救急外来におけるコミュニケーションは、以下の3つの点で通常の診察と異なる点とそのために心掛けていることの紹介。

(1) ほとんどの患者さんとは初対面。
たとえ他のスタッフから話を聞いていても、改めて「まずしっかり話を聞く」ことが大切。
(2) 誰もが「自分(自分の家族)が最優先」と思っている。
患者さん(ご家族の)不安な気持ちに対峙し・理解を確認することは、診察や説明を行ううえで重要。
(3)時には最悪の結果(バッドニュース)を伝える役割を担う。
救急外来では、患者さんやご家族に対して重篤な状態であること(時には死亡した)ことを伝える場面がある。そのため相手の置かれている状況を把握することが必要。そのため「突然のことで驚かれましたね」など気持ちを汲み取り、話をすると、距離が近くなるように感じる。また時には待つ時間も必要である。

☆東日本大震災では医療救護班として被災地に赴き、先輩の看護師長が、患者さんの気持ちに共感し、寄り添うその姿から学ぶことが多くあった体験の報告。

☆救急外来だからこそ、コミュニケーションが大事であることを認識し、これからもこころの通い合う救急外来を目指して診療に当たりたいと思っているとの決意の披露。

スタッフ面接や指導に活かす 看護ふれあい学

向後 加代子

東京慈恵会医科大学付属病院 看護師長
看護ふれあい一般講座インストラクター
ふれあいコミュニケーションリーダー
向後 加代子氏

看護ふれあい学の技法を使って2つの問題解決を実現できたことの事例発表がありました。
(1) 手術室に勤務する3年目看護師のスキルアップに対する思いを引き出し、エキスパートナースに成長する
ための意思決定を手助けする関わり。
当院の手術室勤務3年目看護師は、これから段階的に難易度の高い手術にチャレンジし、実践能力レベルを高めていく時期である。その3年目看護師との面接において、『看護ふれあい学』のコミュニケーション技術である「能動的な聞き方」や「わたしメッセージ」を使うことで、スタッフ自身が自己の経験を振り返りながら、実践レベルを確認でき、今後チャレンジしたい専門領域について意思決定する手助け(プロセスコンサルタント)ができた。
(2)体調不良を訴え、仕事の継続が困難であると訴えるスタッフと、現場の状況から中
途退職を認めることのできない師長の問題解決。
手術室勤務6年目のスタッフナースが、自身の病気(婦人科)治療による副作用のため、これまでと同様の勤務は難しいとの相談があった。何度か話し合いを持ちながら、勤務時間や仕事内容の調整を行ってきたが、治療が長引くにつれ、身体的・精神的にも追い込まれて「治療に専念したい」と退職を申し出てきた。貴重な戦力の6年目ナースに中途退職をされては、手術室運営が困難になってしまうため、『看護ふれあい学』の「勝負なし法」を用い、中途退職を回避し年度末での退職が実現できた。できた事例の紹介。

患者さんにとって 最善な医療・看護を届けるために

〜医療チームの力を拡大させるコミュニケーション〜

林 由美

東京慈恵会医科大学付属柏病院 救急救命センター師長
看護ふれあい学一般講座インストラクター
ふれあいコミュニケーションリーダー
林 由美氏

看護ふれあい学を学んで自ら経験し考えてきたこと、と現場のスタッフおよび自身の3つの実践事例を紹介。
看護ふれあい学に出合う前は、患者さんとの間に認識のズレが生じることもしばしばあったが、この技法、特に「能動的な聞き方」を身につけたことで、患者さんの気持ちを十分理解することが出来、さらに患者と共感できる能力まで身につけることが出来きた、と紹介。
また以下現場スタッフの実践事例の報告。

事例1.看護師A「患者さんの生き方を支える」
緊急入院した(80代、女性)Bさん。退院後の生活の仕方を決めるため、Bさん、ケアマネージャー、息子さん、それぞれの考えを看護師Aが「能動的な聞き方」で聞く。その結果、最後まで自宅で過ごしたいBさんの願いを「介入的援助」で実現した。

事例2.看護師B「患者・医師・看護師それぞれの力が拡大する」
苦痛の強いAさん(70代、男性)に看護師が「Aさんの痛みの緩和をなんとかしたい」と、わたしメッセージで伝えると、Aさんは医療チームが自分の痛み緩和に前向きに取り組んでいると初めて理解した。
Aさんの痛みは、神経内科の医師の協力を得て緩和に向かった。神経内科の医師に、肯定のわたしメッセージで感謝の気持ちを伝えた。
(いずれの場合も言葉にしないと伝わらないと私は改めて実感した)

事例3.私自身「救急受け入れの問題を考える」
救急患者の受け入れ要請があった時、救急救命センター看護師から「どの科に該当するかで医師も間でもめており、受け入れが困難で困っている」との報告があった。私はその看護師に「能動的な聞き方」で聞いた後、医師と話し合い、「わたしメッセージ」で、「迅速な対応ができず困っている」ことを伝えてこの問題を解決した。また、このことがきっかけで、後日医師の間にルール作りがなされた。

「ワンポイントレッスン」

看護ふれあい学インストラクターの青木きよ子より、(1)看護ふれあい学講座で使用される用語の説明。(2)医療現場での効果的なコミュニケーション(トマス・ゴードン博士が開発したコミュニケーション プログラム)である技法の行動の四角形を取り上げて、患者さんとの具体的な対応の方法についての話がありました。

「全体討論」

今井真理子看護ふれあい学インストラクターがコーディネーターとなって全体での討論を行いました。
参加者方からは、「看護ふれあい学」がすべての現場に届いて欲しいとの意見が複数出された。これに関連して、下地がない所に「看護ふれあい学」をいかに普及させるか、その方法についての討論がなされました。また、実践報告にあったようにバッドニュースを家族に伝える場合に、家族にどんな言葉をかけるか、また、家族にどのような配慮をして伝えるかについての意見交換がありました。最後に医師との意思疎通に看護ふれあい学が役立ったなど医療現場での実践経験についての話し合いがありました。

「まとめ」

最後に看護ふれあい学研究会会長の中井喜美子氏から次のような挨拶がありました。
看護ふれあい学は私が近藤千恵先生と一緒に開発したプログラムですが、本日講座を学ばれた実際の現場で活躍されている皆様のお話を伺って、
(1)看護にあたる方が「白衣の天使」としての自己犠牲ではなく、患者や看護者が、自分も相手も大切にしたコミュニケーションを取り合うことで、患者や家族・医師・スタッフと心を通い合わせながらともに成長し、チーム医療・看護を実現していく、
(2)実践を通して模範を示し、それを次の世代に伝えていく、ことの大切さを、そしてふれあいコミュニケーションの大きな可能性を改めて感じました。
今後とも、看護の現場におられる皆様の色々なご意見を頂きながら、我々自身が一層研鑽をつみ、「看護ふれあい学」の講座を通じて、より多くの皆さまのお役に立ちたいと願っています。本日は本当に有難うございました。