2014年教師学事例研究会のご報告

2014年8月4日(月)、第12回教師学事例研究会が金沢工業大学大学院 東京虎ノ門キャンパス(東京都港区)で開催された。全国各地から今年も約80名の参加があり、教育現場での実践事例発表などが行われた。(主催:親業訓練協会/教師学研究会)

教育とコミュニケーション力(りょく)

〜教師学 思いが伝わる3つの方法〜

今年のプログラムは、I教師学レクチャー、IIポスター&セッション、III全体シェアリングという構成であった。まず、午前中に全体に向けて教師学レクチャーが行われた。続いて、昼休みには各自で教師学の実践事例をまとめたポスターの閲覧をし、午後にはポスター別のテーマに分かれてグループセッションが開かれた。発表者を囲んで、どのグループでも率直な意見交換が活発に行われていた。いつものように最後は全体でのシェアリングで盛会裡に終了した。

*I 教師学レクチャー*

I 教師学レクチャー

草柳明彦教師学インストラクターによる教師学のレク チャーとそれらが活用された教育現場の実践事例の発表がミックスされた新しい試みの発表であった。事例にはその都度教師学での解説がなされ、教師と生徒が信頼関係を築くためには教師学が有効であること、また現場でどんな具体的な効果があるのかがよくわかると好評だった。参加者が二人ひと組になって教師役・生徒役になるロールプレイを行い、各自の役割でどのように感じるかの体験も行われた。

【教師学レクチャーの中で紹介された実践事例】

事例を発表された方

事例を発表された方
左から 小林京子さん 本間恵さん 矢代幸子さん

保育所にて

元公立保育所保育士
小林 京子さん

保育所で経験した3つの事例を紹介した。

  1. 保育所の乳幼児に対して
    泣き止まない1歳児に能動的な聞き方で対応してピタッと泣きやんだ時の驚き。
  2. 職員に対して
    職員同士で対立が起きた時に、第3者として介入的援助をすることで、当事者同士が理解し合えた事例の報告。
  3. 保護者との対応について
    怒っている保護者に能動的な聞き方とわたしメッセージを使うことで相手との関係を壊さずに済んだ。

小学校にて

公立小学校非常勤講師
本間 恵さん

学級の児童との4つの事例紹介があった。

  1. 小3同士の言い争いの場面で、介入的援助で手助けしようと臨んだ結果、お互いに相手を傷つけることなく解決できた。
  2. 生徒の協力が得られた際に肯定のわたしメッセージを送り、生徒との距離感がより近くなった体験。
  3. 前回の授業で私語が多く授業が進まなかったため、授業の最初の場面で予防のわたしメッセージを伝えた効果。
  4. 数人の私語で授業に集中できず、対決のわたしメッセージで働きかけた事例。双方向のコミュニケーションで、相手との対等な人間関係を築け、徐々に心の絆が作られていくことを実感。

高等学校にて

公立高等学校教諭
矢代 幸子さん

生徒との3つの事例が紹介された。

  1. 保護者から子ども(A子)が部活のことで悩んでいると聞き、A子に能動的な聞き方をすることで、A子自身が本当の悩みは別にあることに気づき、自分で解決策を見つけて行った様子を紹介。
  2. 高2のC子の短いスカート丈が気になる。価値観に影響を与えるわたしメッセージで伝えた結果、C子自身が行動を変えて驚いた事例。
  3. 「部活の試合と重なって夏休みの補習に全部は出席できない」と申し出てきたD男の事例。勝負なし法を使って話し合った結果、お互いが満足できる解決策が生徒から出てきた。

注)青字は教師学用語レクチャーの際に解説が行われた。

*II-1 ポスター&セッション(閲覧)*

教師学の実践例がポスター形式で発表されました。

生徒のコミュニケーション力を養う取り組み
私立中学校・高等学校教諭(鹿児島県)園元 恭子さん

生徒のコミュニケーション力を養う取り組み文科省は児童、生徒の生きる力を養う指導の大切さを大きく打ち出しています。私は、自ら、考え、判断し、実行し、そして自己責任がとれる人間の形成には、コミュニケーションが必要だと感じています。その具体的な方法を教えてくれるのがゴードン・メソッドです。私たちの学校では生徒たちにコミュニケーションワークショップを学期ごと、また教科指導時にも繰り返し、意識させています。その取り組みと生徒の感想、そして実践例を紹介します。

「心と心を結ぶための」取り組みから
九州地区教師学研究会代表(福岡県)土岐 圭子さん

「心と心を結ぶための」取り組みから人と人が「心とこころを結ぶため」に、コミュニケーション・ツールである「ことば」を題材に、「カフェ形式」でのイベントを開催しました。小学生以上の子どもたちも含め、5、6人のグループで、「言ってほしい言葉」「ほしくない言葉」を書き出し、互いにその背景にある想いなども発表してもらいました。率直な感情がたくさん出ました。それに対しての意見や感想も様々でしたが、とても心地よく、違いを認め合うことの大切さを実感し、日常の人間関係への気づきも生じたようです。

「きもち」を大切にするワークショップ
―思春期の子どもたちと感受性のトレーニングを行うと何が子どもの心に残るのかー
元 幼稚園教諭(岐阜県)松尾 千景さん

「きもち」を大切にするワークショップ上記のテーマにそって、今まで各学校にて生徒に向けて実施したワークショップの結果を基に考えをまとめてみました。「人は大人になると、感情より理性で行動を起こし、他者に対して自分の感情を表現しなくなる」「小さな頃から肯定的な感情は、周りから受け入れられるが、否定的な感情は、良いものとして受け入れられていないのが現実である。」どんな感情をも感じることが許されることを確認し、どう表現すればよいのかをまとめました。

ゴードン・メソッドで耕す学校風土
―高校現場からー
公立高等学校教諭(千葉県)矢代 幸子さん

ゴードン・メソッドで耕す学校風土生徒も保護者も教師もみんな“face To face”で誰かと繋りたがっている。しかし、そのことは大変難しいのが現状である。思いやりにあふれ、みんみなで支え合う学校風土を育てるためには、包括的な予防的取り組みが必要だと考えるようになった。つまり、問題なし領域の活用である。生徒にも保護者にも教師にも、学校が安心できる場になるよう、現場にあるリソースに着眼しゴードン・メソッドを活用した取り組みを実施している。

生徒とのやりとりの実際を振り返る
−その時、教師学のアプローチをどう意識したか−
私立中学・高等学校教諭5名

私立中学校・高等学校に勤務する現役教諭5名が報告を行いました。この5名は、教師学のアプローチを日々の教育実践にどのように活かしてゆくかをメインテーマとして勉強会をおこなっている教師たちです。
発表は具体的な逐語録をもとにし展開しました。現場で実践する教師たちから「その時・その場」で「何を感じ・考え」ていたのかといった生々しい体験が報告されました。(文責・石渡健児)

*II-2 ポスター&セッション(ディスカッション)*

発表者とのディスカッションは今年からの試みで、参加者は各々関心のあるポスターを2つ選び、発表者を中心にグループに分かれてディスカッション(2回)を行った。

ポスター&セッション

ポスターのテーマごとに分かれての
グループセッション発表者との意見交換などが行われた

*III 全体シェアリング*

最後は全員で大きな輪を作り、1日過ごした感想などを分かち合った。発表者への質問等の他、お互い活発な意見交換も行われ教育現場での教師学の必要性を再認識した。

全体シェアリング